精神療法を教わる場所が少なすぎる件について

私は精神療法を専門に掲げている精神科医だ

しかし掲げてはいるものの、私が十分に精神療法教わっているかと言われればそんな事はないし

誰かに教えられるようなテクニックを身につけているわけでもない

だからどこかでしっかりと教わりたいのだが、その教わる場所や機会が、極端に少なすぎる

今回は精神療法を教わりたいけど教われない日本の精神科医の現状について解説していこうと思う

まずは薬物療法。その後に精神療法?

薬物療法は薬で、精神療法はお話しで治療する治療法である

ほとんどの精神科医は、精神療法ではなく、まず薬物療法を叩き込まれる

なぜならいわゆる幻覚妄想症状を呈する統合失調症や、ある程度の重症度の気分障害(双極性障害やうつ病)の人には、薬がよく効くからだ

精神科医にまず最初に求められることは、薬物療法が効きやすい一群を見分け、治療できるようになることなのだ

早く寛解が認められる一群を見落とさず、ささっと良くなる治療を行う

その方が病院の儲けも圧倒的によくなるため、自然とそれが求められる

一方で、薬物療法だけでは効果が出にくい一群がある

大雑把にくくると、うつ病寛解後の慢性的な抑うつ気分や、パーソナリティ障害、神経症圏(強迫性障害、身体表現性障害等)は薬による治療のみでは効果が出にくい

そう言った一群に、精神療法をすることになるのだが

精神療法で治療効果がでるのは非常に時間がかかる、それどころかあまり良くならない患者も多く、病院の患者の回転率はさがり、収益が下がってしまうのだ

つまり急性期の精神病症状に対する治療は主に薬物療法であり

比較的慢性期の症状を認める患者に精神療法を行うのである

極論だが、慢性期の症状は良くならなくても、急性期よりは困らない

これらの特徴もあり、精神療法は後回しになりがちな背景がある

また精神療法は、いわゆるカウンセラーと呼ばれている臨床心理士が行う治療の領域でもあるため

時間のかかる精神療法は臨床心理士に任せ、薬物療法をメインで行うという精神科医も多い

支持的精神療法

精神療法は、大まかに2種類に分けられる

・対象となる人のパーソナリティや考え方の変化や成長を積極的に目指していく治療(能動的な治療)

・変化はそこまで目指さず、その人が現在持っている資質を十全に活かせるようにすることで適応力を挙げることを支援する治療(受動的な治療)

まずはその後者にあたる、支持的精神療法を紹介したい

支持的精神療法は、精神科医が診察する上での、基本中の基本のスキルである

患者の訴えを傾聴し、復唱し、共感することにより

患者は「わかってもらえている」安心感を得ることができる

これだけで症状が良くなる患者もいるくらいだ

診察室に入ってもなかなか聞いてくれない、頭ごなしに意見を押し付けてるくる精神科医もいるが

こういった精神科医は、基本中の基本である支持的精神療法ができていないのである

支持的精神療法は誰かに教わるということはあまりなく(もちろん奥は深いとは思うが)

精神科医であれば、だいたいの人は自然と身についてる精神療法のスキルである

能動的な精神療法

一方二つ目の能動的治療にあたる精神療法には、色々な種類がある

フロイトを端に発す精神分析や

日本生まれの精神療法である森田療法

その他に家族療法、対人関係療法、弁証法的行動療法など多岐にわたる

支持的精神療法と違う点は、自然に身につけることが困難であるということだ(自然と能動的精神療法のような関わりをしている人もいるが)

また自主的に学んでとしても、能動的な精神療法専門家の真似をしたところで、うまくいかない事も多い

なぜなら患者や治療者の性格、年齢、信頼関係の度合いなど

状況によって同じアプローチをしても全く効果がでない場合もしばしばあるのだ

この人に言われたらムカつくけど、この人に言われたら確かに・・と腑に落ちることが皆さんもあると思う

そのため、治療者それぞれのの説明し難いテクニックによる影響がかなり大きいため

精神療法は薬物療法に比べて体系立って教えることが難しいのである

認知行動療法

そんな能動的な精神療法の中でも最も学びやすく、最も学ぶ機会が多いであろう能動的精神療法は

認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy 略してCBTと呼ぶことが多い)だろう

CBTはアメリカ生まれの精神療法であり、精神療法の中でも、最もシステマチックな精神療法

そのため、比較的どんな治療者(初学者)であっても治療効果が得られやすいと言われている

精神療法の中で最も研究論文もでており、システマチックで評価もしやすいことから用いられることが多いのだろう

精神療法を学ぶ方法①

冒頭にも述べた通り、私の専門は精神療法だ

言葉を操り患者を良い方向に誘う、仙人のような精神科医になりたいのだ

仙人に近づく方法の一つとして

ひたすら精神療法の対象となる症例をあつめて野戦的に経験を積む という方法がある

よほど精神療法の自論が確立していて自信をもって治療ができるのなら良いのだろうが

精神療法は正解が分かりづらく、効果も出にくいため、このやり方で良いのだろうか?という不安が常につきまとう

私はその不安に耐えられるほどタフではないし、何より正しいのかわからない治療を患者さんに行うことを申し訳ないと思う

精神療法を極めし人や、良くも悪くも自論に傾倒できる人はこのやり方でいいだろう

しかし私はそうではないので、しっかりと教えてもらいながらやりたいと思うのだ

精神療法を学ぶ方法②

精神療法を教えてもらう方法は二つある

一つ目は精神療法のセミナーなどに出向き、精神療法の概念や実際の治療ケースを学ぶ方法だ

十数回のセッションにわかれたセミナーを1ヶ月か2ヶ月に1回受講することが多い

しかし、セミナーのほとんどは、実際に困っている症例を十分に相談することができないことが多い

つまりオーダーメイド感にかけてしまうのだ

もう一つは専門家からスーパービジョンを受けるという方法だ

実際に患者さんに精神療法を行い、診察と診察の合間に専門家に相談しながら治療方針を修正してもらえるのだ

これをくり返して精神療法を行うのである

セミナーで精神療法を学ぶのとは違い、自分の実臨床に則した相談ができるため、オーダメイドかつ正しい治療を行える可能性が高くなる

じゃあスーパビジョン受けた方がいいじゃん!と思うのだが

セミナーは探せばいくらでも受けられるが(それでもたくさんあるとは言えない)

それに比べて、スーパービジョンを受けられる機会は極端に少ない

それでもやはり、稀なスーパービジョンを受ける機会が最も多いのは、認知行動療法であろう

(精神療法に力を入れている現在精神科医4年目の私でも、かろうじて2回スーパービジョンを受けることができた程度・・・)

まとめ

精神療法は薬物療法とは違い、時間もかかるし、儲からないし、体系だって教えることが難しい

精神療法の中でも、学びやすい(学ぶ機会が多い)のは認知行動療法であり、よりしっかりと学ぶのであればスーパービジョンを受けることをおすすめしたい

しかしスーパービジョンを受ける機会は極端に少ない

ましてや精神科医として入局(所属)する先によっては、スーパービジョンは愚か、一生精神療法を学ぶ機会が訪れないこともあるだろう・・・

さて、今回も偉そうに述べてきたが

ここまで読まれたみなんもお気づきの通り、私もまだまだ精神療法を十分に学べているとは言えないのである

精神療法を学ぶためには、しっかりと机上で勉強することも重要なのでは?と思い、大学院への進学を考えたり

認知行動を専門的に学ぶことができる国立精神神経医療研究センター(NCNP)の認知行動療法レジデントプログラムへの所属を考えたり

認知行動療法を指導できるスーパーバイザーになるためにはどうすればいいのか調べてみたりと

千思万考している最中なのである

精神療法を学ぶところがもっとたくさんあればどんなに良いだろう・・・

本当にこれにつきるのではあるが、いつまでもそんなことを言っていてもしょうがない

やりたいことを掲げ続ければ、必ずそこに近づくことができるはず

そう自分を鼓舞しながら、記事を書いている・・・

今回の記事は少し専門的すぎる内容になってしまったが、精神療法をやりたい若手精神科医の道標に少しでもなれば幸いである

精神療法のさらなる繁栄を願ってます・・・

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