西加奈子の「サラバ!」を読んだ
「自分が本当に信じているものは何か」考えるきっかけをくれ
「文化にもっと深く触れたい」と思わせてくれる作品であったので、ここに記録したい
西加奈子のサラバ!は、2014年に刊行され、第152回直木賞を受賞した作品である
私を見て!!と奇行ばかりする姉と、常に空気を読んで生きている主人公 歩の物語である
歩の幼少期から中年に至るまでが描かれている
いつも姉が家族の調和をかき乱しており
歩は「イイ子」でいる事で、家族の潤滑油になることを余儀なくされてきた
しかし、皮肉な事に空気を読み続けることを強いられてきた歩は、物語が進んでいくにつれ
見栄えや建前ばかり気にする自意識の怪物になっていく
しかもそのことに自分でも気づくことができていないのである
特に恋人選びにおいて、それは顕著である
見た目の醜さや、女性の過去(不貞等)を気にするあまりに
歩は本当に自分が好きな人に気づくこともできないのだ
あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ
一方物語後半では
私をみて!!でお馴染みの姉の方が、歩と相反して、安定した精神の持ち主になっていくのが印象的である
物語の終盤、何もかも失った歩は、自分にとって本当に信じられるものはなにか探す旅にでる
図書館で本を読み続けたり、思い出の地エジプトを訪れてかつての親友を訪ねたり
そして歩はみつける。自分にとって本当に信じられるものを
それはエジプトで何度も自分を救ってくれた「サラバ」という言葉 と
「小説を書きたい」という、己から湧き出る欲求である
以下、物語の終盤に書かれている内容を引用する↓↓
あなたは、あなたの信じるものを見つけてほしい。
そしてこの物語に、信じるものを見つけることができなかったのであれば、他の物語を読んでほしい
この世界には、数えきれないほどの素晴らしい物語が存在している
何を信じるのかは、いつだって、あなたに委ねられているのだ
恥ずかしいが、姉の言葉をここで引用したい
「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」
この文は作家である西加奈子自身をも意識させる文章であり、彼女が何を思いながらこの文を書いているのだろう・・・と思いを巡らせながら、読むこともできる
なんとなく満たされない現代人
さて、このブログの他記事で、承認欲求とSNSについても記載しているが
自分が求めているものが何なのか、わからなくなっている人は多いのではないだろうか
ましてや、わからなくなっている事に気づくことすらできない人も少なくはないだろう
適当に仕事をこなし、家に帰り、Netflixを見て寝る
土曜日に友達と飲みに行き、日曜日には、二日酔いのダルさを紛らわすようにベッドの上でSNSをスクロール。気づいたらもう夕方になり、明日の仕事の事を考え、憂鬱になっている
なんか満たされない。でも何が足りないのかわからない
そんな満たされない毎日を送っている現代人にこそ
西加奈子のサラバ!を読んで欲しい
(上下巻に分かれた少し長い小説であり、TikTok世代の若者にはハードルが高いかもしれないが・・・)
そして不特定多数の「イイね!」より、自分だけの「サラバ!」を見つけて欲しい
文化は精神の食べ物
また「サラバ!」では、音楽や文学、映画などの「文化」を愛する人(須玖や鴻上、夏枝おばさん)が印象的に描かれている
サラバ!から少し離れるが、美輪明宏もテレビで言っていた
文化は精神の食べ物である。文化は孤独から人間を救ってくれる
もっともっと素晴らしい物語に触れ、文化を愛したい。サラバ!を読んで強くそう思った
そんな20代最後の秋。サラバ!