粗品にしかできない精神療法(粗品単独ライブ切り抜きをみて)

霜降り明星 粗品の単独ライブ「電池の切れかけた蟹」の切り抜きYouTubeをみた

この単独ライブはすでに何回か開催されており、切り抜きが色々とあがってるのだが

特に「余命宣告された太客にとんでもなく辛辣な粗品」

という題名の切り抜き動画を見てほしい

タイトルとは相反して、粗品の優しさや芸人としての能力が遺憾なく発揮されている

もちろん粗品もすごいのだが

この現象は、粗品だけではなく、サダスタの安定した精神状態が大きく影響している

粗品の人柄と才能に、太客であるサダスタの強いメンタルが掛け合わさり

双方の相乗効果により、とても素敵な掛け合いが繰り広げられている

精神科医の視点から、粗品にしかできない精神療法と、サダスタの強い心

この二つについて触れながら

この現象を考察していこうと思う

太客のコーナー

粗品の単独ライブ「電池の切れかけた蟹」では、粗品のファンであり支援者の「太客」と直接話をする

「太客のコーナー」というものが用意されている

借金2300万円を完済した翌日に5000万円借金する等、令和の借金大王である粗品ににぴったりのコーナーである

そのコーナーで、太客である「サダスタ」は指名され、こう発言した

「生まれつき脳に腫瘍があって、うつ病もわずらっていて・・・3年後生きてる確率10%なんです」

すると咄嗟に、自然な笑顔で粗品は言った

「まじか!!でも俺宇宙戦艦ヤマトの継続率90%のやつ一連でよう終わるから大丈夫やで」

会場に笑いが起こった

余命宣告された太客に対して、粗品は動揺する様子もなく、腫れ物に触れる様子もなく、かといって失礼すぎない態度とボケにより、辛い事実を咄嗟に笑いに変えたのだ

それだけでは飽き足らず、粗品はこう言った

「大変やなぁサダスタ。僕ねこの拍手の音圧が好きでね、なんか元気でるじゃないです。よかったらみんなサダスタに拍手してもらえませんか?サダスタに大きな拍手を」

会場に大きな拍手がおこった

そして最後にさらっと「また近況を教えてくれ」と言い、次の太客トークに移っていった

サダスタはこの動画のコメントに「めちゃくちゃ元気出た1日でした!ありがとうございました!」とコメントしている

粗品にしかできない精神療法

サダスタはこのやりとりで気持ちが軽くなり、粗品から元気をもらったわけである

これはまぎれもなく粗品にしかできない精神療法であったと考えられる

サダスタの心を軽くした要因は二つあると考えられる

一つ目は「笑い」という手法を用いて発想の転換が行われたということだ

3年後生きてる確率が10%と医者に言われるのはかなり辛い物がある

普通はその事実をネガティブに捉え、3年後は生きていないのだろうと思うはずだ

だがこれは確率の話なのである

10%の確率で生きている可能性もあるのだ

しかしその事実をそのままサダスタに伝えても、あまり本人には響かないだろう

本人が受け入れられるようなジョークを交えて伝えることで、ポジティブに受け入れられることがある

ことが実際の臨床現場でもある

また、大好きな粗品の言葉であるということも関係しているだろう

赤の他人に言われるよりも、信頼する人に言われた方が、何百倍も腑に落ちる経験がみなさんもあるのではないだろうか

もう一つの要因としてあげられるのが

意識がネガティブ思考から「拍手」という感覚に移り替わったという点だろう

ネガティブ思考に陥っている人は、意識が自分の思考のみに集中してしまい、余計なことまで考えてしまい、ネガティブ思考の沼から抜け出せなくなってしまう(これを反芻という)

この反芻の状態から抜け出すために、精神科の臨床現場では、様々な手法が用いられている

マインドフルネス瞑想や呼吸法、氷を握りしめるエクササイズなど、感覚に働きかけることで

思考から感覚に注意をそらすことで、反芻から一時的にでも抜け出すことができるのである

サダスタは大きな拍手を感じることで、聴覚や触覚に注意が映ることで、思考から感覚に切り替えることができたと考えられる

まさしくこれは芸人である粗品にしかできない精神療法である

サダスタの強い心

この感動的な空間が出来上がったのは、もちろん粗品の力量によるところも大きいのだが

サダスタの良好な精神状態に起因するところも大きいと考える

死の受容のプロセス(キューブラー・ロス)

余命宣告された人の反応として、アメリカの精神科医が唱えた

「死の受容のプロセス」と呼ばれる「キューブラー=ロスモデル」が有名である

キューブラー・ロスによると死にゆく人の心理過程は5段階あると言う

否認→怒り→取り引き→抑うつ→受容

この順番で人は死を受け入れていくという

おそらくサダスタはこの過程を経て、様々な苦悩と感情をへて

現在は死を受容する段階にきているのだと考察される

そうでなければお笑い芸人のライブを見にいくことは難しいだろうし

太客のコーナーで、あんなふうに自分の状況を伝えることはできなかったであろう

個人差はあるだろうが、受容に至るまでにかなりの時間が必要とされるだろうし

それを乗り越えていったサダスタは、たくましく力強い心の持ち主なのだと推察される

問題解決志向モード

もうひとつ、サダスタの良好な精神状態を推測する上で重要な理論が存在する

それが、問題解決思考モードという概念だ

問題解決思考モードとは、精神療法の一つである認知行動療法の適応を考えるうえで、重要な概念である

多くの精神療法は、治療に取り組もうと思うモチベーションが回復しないと、導入することが困難であることが多い

認知行動療法導入の適応を考えるときに、まず患者が「問題解決志向モード」または「動揺・気力低下モード」のどちらにいるかを考える

「問題解決志向モード」とは、患者の困りごとに対して取り組んでいこうという状態や方向になっているものを指す

「動揺・気力低下モード」は、うつ症状が重すぎて気力低下が強すぎるものや、情動反応が活発で気分の動揺が顕著でなものを指す

認知行動療法では、 「問題解決志向モード」になっている、あるいはその見込みがある人が適応となるのだ

死の受容プロセスでも述べたが、死を受容するまでには個人差があるが、かなり時間を要する

たとえば「否認」の状態の時にいくら他人から励まされても「お前になにがわかるんだ」

と思うだろうし

「抑うつ」状態がひどい時にいくら行動を促しても、お笑いライブに参加しようなどとは思えないのである

「動揺・気力低下モード」の患者には、治療関係構築を図って安心して話せる場を維持いくことが当面のポイントになる(薬物療法を併用することもある)

根気よく患者に接することで「動揺・気力低下モード」が落ち着き、次第に 「問題解決志向モード」になるため、そのタイミングで認知行動療法を検討することになるのである

おそらく彼は今、問題解決思考モードに入ってるのだと思われる

ライブに行こうと思ったり、太客のコーナーで自分の話をしようよ思ったということは

死を受け入れ、今この瞬間から、できることに取り組もうと考えているのではないだろうか

あとがき

動画で本人も述べていたが、サダスタはまだ22歳なのだそうだ

死を受容する段階にきているのかもしれないが、現状が辛い状況に変わりはない

そんな彼に対して何と声をかけるのかは、医師や精神科医ですら難しい問題だ(むしろ正しい声かけができない医者も多い)

おそらく僕であれば、今の状況を評価をせず話を聞き、彼がこれからどのように生きていきたいのか、ゆっくりと一緒に考えていくのだろうと思う

とてもじゃないが、この状況を咄嗟に笑いに変えることはできなかったであろう

しかし粗品は辛い状況を笑いにかえ、おまけに拍手でエネルギーまで与えてしまったのである

辛い現実を笑いに変える。これぞ真の芸人だと思った

そしてこの出来事は、辛い現状をを乗り越えたサダスタの強いメンタルがあってこその出来事である

今回は、サダスタが病気にならないと生まれなかった空間を目撃し

心が熱くなったので記事を書かせていただいた

これは粗品とサダスタ、双方の精神状態と人柄の良さにより作り出された、とても稀有で素敵なやりとりだ

辛い現実に打ちひしがれたとしても、前を向くことができる

人間はそんなにやわじゃない。そう思わせてくれる動画だった

最後に、このような言葉を使うことには若干抵抗があるがこう言いたい

サダスタと粗品、双方共に推せる・・・

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